クマゼミの羽化観察のコツ

−イナバウアーよ永遠なれ−

 セミの羽化観察は実に身近で、手軽に神秘的なシーンを満喫できます。ただし、多少のコツはあります。以下に西日本の都市部に多いクマゼミを例に解説します。
 
クマゼミの羽化時期
 何年か前、「夏休みの終わり頃にようやく自由研究に着手しようとして、セミが羽化してないか公園を見てまわったが、全然いてへん」という電話をもらったことがあります。やはり適した時期というものはあります。大阪市内に多いクマゼミの場合、鳴き声が最もうるさくなるのは7月の最終週から8月の第1週ですから、羽化の観察に最もよいのはその少し前ぐらいです。観察時期について聞かれた時には、いつも「ちょうど祇園祭(7月16日)から天神祭(7月25日)の頃やで」と答えています。
 7月前半や8月上旬では、羽化するクマゼミは少ないですが、下記のような時間帯と植物を狙って見に行くと、観察できる確率が上がります。
 
時間帯は日没後から夜更けまで
 クマゼミのほとんどの幼虫は、日がとっぷりと暮れて、懐中電灯なしでは暗くて何も見えないぐらいになってから、セミの幼虫は穴から地上へ出てきます。(午後8時以降:図1)。時々、まだ日が沈んでないのに、地面をテクテクと羽化前の幼虫が歩いているのを見かけるように思われるかもしれませんが、その記憶は実は、羽化の最も多い時期にほぼ限られています。また、そのような時期には逆に、朝方近くになってから地上へ出てくる者もいて、夜が明けてもまだ白いセミが樹にぶら下がっているということになります(そして鳥に見つかって食べられちゃう)。
 このように、羽化の最も多い時期には、標準から外れている者を私たちが観察できる確率が上がるというわけですが、そのような「変わり者」がいるからこそ、もし大きな環境の変化があっても命をつなぐことができるのだなあ、多様性って尊いなあ、と私は思うことにしています。
 とにかく、羽化観察に適している時間帯は日没後から夜更けまでです。
 
樹の種類
 探す樹の種類は、大阪市内の公園なら、ケヤキ、サクラ、アキニレ、トウカエデなどが多いです。既に羽化が始まっている時期であれば、抜け殻のたくさんついている樹を、明るいうちに目星をつけておいて、日が暮れたら懐中電灯を持って見に行けばいいでしょう。
 羽化の多い樹の地面には、セミの穴がたくさん開いていますから、これを見てまわるのも観察場所をさがすコツのひとつです。直径の大きな穴は数日前に既に出てしまっていますが、小さな穴の中には、今晩出ようとしているセミ幼虫がいて(たぶん日が暮れるのを眼で見て待っている)、のぞきこんだ時に目と目が合う(?)ことがあります。
 
イナバウアーは午後9時台
 セミの羽化観察でのハイライトは、反り返って脚を乾かした白いセミが起き上がり、おしりをヌケガラから抜いて、ハネを伸ばし始めるところです。反り返った状態が最も多くみられる時間帯は午後9時台です(図1)。以前、羽化観察会の時に、反り返った状態のことを「イナバウアー」と説明していましたが、いまの子供たちはイナバウアーを知らないようです(トリノ冬季オリンピックは2006年かぁ・・・)。
 

図1.クマゼミの羽化の時間経過。



図2.クマゼミの羽化観察会。2010年7月17日、長居公園。「イナバウアー」している(ああもう古い!)。

窓蛍舎ホームへもどる