究極のナチュラリスト=マタギ

 以前から気になっていたマタギ資料館(秋田県北秋田市)を見学した。マタギとは東北地方などの山において伝統的な方法を用いて狩猟を行なっていた人を指す。

 興味をひかれたひとつは、その山に対する信仰心であった。山を神(女神、しかも醜い!)がすむ神聖な地としているそうで、これは仏教伝来以前の原始神道に通じるものがある。

 もうひとつはマタギ衆が使う言葉である。里で使う言葉は山の中では使わないそうで、水・酒=ワッカ、イヌ=セト、などと言うそうだ。「ワッカはアイヌ語ではないか」とすぐにピンと来た(カムイワッカ[=神の水]の滝というのが知床にある)。

 熊を「山の神からの授かり物」と考えている点はアイヌとの共通性もある。

 マタギの起源は平安時代から鎌倉時代と言われているそうだが、そんなに新しいはずは無いと思う。少なくとも狩猟生活をしていた縄文時代からのものではないだろうか。あるいは沿海州ナナイ族の猟師、デルスウザーラ(黒澤明監督により1975年に映画化)が同起源であれば、旧石器時代にまで遡る可能性さえあると思う。

 デルスウザーラは山の自然の中で暮らすための自然に対する知恵をたくさん身に付けており、究極のナチュラリストなのだと映画を見て思った。おそらくマタギも同様であろう。

 自然との関係が極めて薄弱になっている現代人の生き方は、これからも自然環境の破壊が続けられ、その負荷は増大するばかりである。私は米や麦の栽培開始より前の狩猟生活が、人類が採るべき持続可能な生き方だったのではないかと思っているが、彼らはそれを実際に示しているように感じた。

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